ライフ・オン・サターン
2009年9月4日、土星の輪が見えなくなる(スラッシュドット・ジャパンより)
土星の環は15年周期で地球から見える角度が変化している。その環が来年(2009年)の9月4日に地球とちょうど水平の角度になるために見えなくなるというものだ。要はCDを真横から見た形と思っていただいていいだろう。実際に土星の環の厚みは100mほどあるというが、天文学の世界では余程の高性能な望遠鏡でないかぎりその厚みは見えない。
私が小学生だったころ、どうしてもこの土星の環が見たくて親に天体望遠鏡を買ってくれと猛烈にアピールした時期があった。図書館で借りた天体図鑑の土星のページを食いいるように眺めては不思議な環っかをつけた惑星に思いを馳せていた。そんなある日、親が天体望遠鏡がそんなに欲しいのかと打診してきたのだ。私が欲するものをそう簡単に買い与えてくれる親ではないことは私が十分承知している。「裏がある」咄嗟にそう判断した私は恐る恐る尋ねてみる。「5を何個とればいい?」。当時の通知表は5段階評価であり、5の数如何でプレゼントの内訳が変わっていた。体育以外ほとんど5とは無縁だった私は、あきらめにも似た口調で親を見た。
「学校の成績なんてどうでもいい。天体望遠鏡が欲しければ児童会長になれ」
さーすが団塊の世代!肩書き大好きだ。
ということで大賀玄米。前年度児童副会長で実績を積んでいた対立候補のN君を僅差で破り第何代目かは知らんが見事K小学校の児童会長に就任と相成る。当選のあかつきにはもちろんマニフェスト実行ではなく、天体望遠鏡購入だ。学校のことなど知らぬ。大切なのは土星だ。
夜空がこんなにも静かな面持ちで私を迎えてくれた日があっただろうか。以前よりチェックしていた土星の位置にスコープの照準を合わせ、最大倍率のレンズを取り付け、ゆっくりと望遠鏡を覗いてみる。ぼんやりとした淡い光がユラユラと揺れている。ピント調整のハンドルを少しづつ捻り、その実体が鮮やかに浮かび上がってきた。天体図鑑にあった写真そのままの姿が今まさに実感として胸に焼き付いた瞬間だった。
家の前の道に集まっていた近所に住んでいる友達やその両親達にも代わる代わる覗かせる。その誰しもが感嘆の声をあげ、宇宙の神秘に浸っている。小学生ながら何物にも代え難い優越感と友達との一体感が私を覆う。その後も月や火星、木星といったメジャーな惑星の観測に夜が更けるのも忘れてはしゃいでいたことが懐かしい。
来年、土星の環が見えなくなる前に、実家の屋根裏で埃を被っている天体望遠鏡でもう一度あの30年前の土星に出会いたくなってきた。あの感動はもうないかもしれないが、何か大切なことを思い出しそうな気がしてならない。







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