夏空に消えたすいかパン
すいかの日にちなみ 「すいかパン」発売(livedoorより)
サークルKサンクスが「すいか」をイメージした菓子パンを7月27日の「すいかの日」に合わせて3週間の期間限定で販売する。
すいかパン。20数年来、夏の暑い日に私の脳裏に現れては消え、消えては現れ続けていた思い出。かまびすしい蝉しぐれが降り注ぐ炎天下の中学校のグラウンド。野球部に所属していた私は夏休みと言えども厳しい練習に明け暮れていた。現在のように熱中症なる都合のよい病名は存在していなかった時代、水分すら補給すれば具合が悪くなると信じられていた。チームの誰もが無口にただひたすら白球を高く広がる青空の下追い続けていた。
ようやく陽も傾きかけた夕暮れ、練習を終える顧問の声を聞くが早いか誰もが一目散に水飲み場へ。水道の蛇口に吸い付くようにみんな水を飲んだ。全員にまんべんなく水分が行き渡り、校舎の日陰で座り込んで一段落している時、キャプテンの世良先輩が「腹減ったから何か買ってこい」との命令を出す。すでにみんなは練習で帰宅する体力以外残っていない。目を見合わせながら困っているとパシリ担当の今井君がスッと立ち上がって「俺行ってきます!」とヤル気を見せた。この今井君、野球が若干苦手のようで、決められたポジションも与えられずに球拾い担当として外野のそのまた外を守っていたわけだが、先輩に対する礼節はわきまえていて、ウケはよかった。
「何を買ってきたらいいですか?」
近くのスーパーまでは走ってせいぜい5分くらいの距離だったけれど、今井君のこの元気よさは行かなくてすんだ私たち後輩にとっては救いであった。
「そうだな。すいかパン買ってこい」
またまたそんなご冗談を・・・などとは言えない。先輩の権力は絶対的だ。好きな女子の名前を言えと言われ学校一のブサイクな子の名前を言ってしまった野上君なんか膝の裏にバットを挟んで一日正座させられたこともあったほどだ。自分で作ってでもすいかパンを買ってこなければ今井君には拷問が待っている。
「何個買ってきたらいいですか?」
明らかに不安と絶望が入り交じった目で今井君は聞いた。世良先輩がレギュラー陣である先輩方にオーダーを確認する。
「5個でいい」
自転車にまたがって夕陽を背に受けながら今井君はスーパーへと続く学校の坂道を下っていく。その背中がいつもより小さく見えたのは決して気のせいではなかった。
すっかり陽も落ちて部室で待機していた私たちの前にとうとう今井君は姿を現すことはなかった。あきらめた世良先輩の「解散!」という声が部室に響き渡り長い夏の一日はようやく終わった。
翌朝、練習前のミーティングに今井君はいた。顧問の話が終わり円陣を組んで気合いを入れた後、それぞれの守備位置につく前にキャプテンの世良先輩に駆け寄る今井君。昨夜、どれほど今井君が悩み苦しんだのかは想像を絶するものがある。誰にも言えない恋の悩みなど比ではない。誰にも言えないすいかパンの悩みを抱える思春期の青年のなんと清廉なことか。うつむいたまま両手を握りしめ腹の底から振り絞るような声にはならない声で言った。
「すみません。すいかパンありませんでした!」
サークルKサンクスが今回販売するこのすいかパン。25年以上も前のあの時、あの瞬間、このパンさえあれば、このパンさえ開発されていれば・・・
そう思うと涙なくして食べられない。1個126円。
5個630円。








コメントを書く