タスポ記念日
本日5月1日、いよいよわが町も成人認識カード「taspo(タスポ)」が稼働を開始した。
タスポカードを登録していない私はタバコの自動販売機での購入が出来なくなると以前から意識していたにもかかわらず、案の定いつもの自販機の前に車をとめる。そそくさとお金を入れ「ケント6mg」のボタンを押す。「タスポカードを使用しなさい」という威圧的で無機質な女性の声。「そうだった!」思わず声を出す私。フイを突かれた時って本当にドラマのように声が出るもんなんだ。
瞬時に免許証でも購入できる話を思い出し、おそるおそる翳してみる。ダメだ。まだ免許証には対応していない。あまりの体裁の悪さにあたりを見回すと後ろにとめている車の中で見知らぬおじさんが何やら笑みを浮かべて私の様子を伺っているではないか。目が合った私は成す術もなく愛想笑いを浮かべる。このままスゴスゴと引き下がるのも鼻持ちならない。おそらく車中のおじさん、定年退職後の朝のひとときの出来事を帰って女房に話すつもりでいる。あたふたと目を泳がせながら善後策に終始するこの私の行動を味噌汁でも啜りながら大袈裟に話すのだ。女房は女房でいい歳して箸が転がるほど大笑いするに違いない。
イカん。こればかりは阻止しないといけない。
バールのようなものでもこの手に持っていればこじ開けて命がけでもタバコを欲している姿をアピールすることができたのだが、生憎手には財布だけだ。財布の中に目がくらむような額の現金が入っていたとしても何の役にも立たない。所詮お金とはそういうものだ。極限状態に身を置いた時は福澤諭吉のブロマイドにもならない。
横目でおじさんを見ると、まだこちらを見ている。車を動かす気配も感じられないほどリラックス感を満載している。
さてどうしよう。そう思った時、自販機の横の建物の陰から一人のおじいさんがとぼとぼと登場した。手に千円札を一枚持って私を見上げるように前に立つ。私のおはようございますという挨拶もそこそこにゆっくりと千円札を投入するおじいさん。そうだ!このおじいさんのタスポを借りればタバコを買える。なんだそういうことだったのか。これで車中のおじさん夫婦の朝食の話題にならなくて済む。朝の静寂にタスポカードの使用を促すアナウンスが流れる中、おじいさんはゆっくりとセブンスターのボタンを押す。
「あのー、カードがないと買えないんですけど」
「カード?」
「タスポってご存知じゃないですか?」
「知らん」
愕然とする私はもはやこの時点で朝食の話題だ。
「自販機でタバコを買うのにカードがいるようになったんですよ」
「セブンスターもか」
「はい、全部です」
状況を把握していないおじいさんは納得がいかない様子だ。
「あんたは買えたのか」
「いいえ、私もカードを持ってないもんで」
「じゃあ、どうすればいいんじゃ?」
「コンビニで買うしかないですね」
「面倒くさいのぉ」
タバコくらい人の手を煩わせずに購入したいものではあるが、私たちの老後を支えてくれる未成年者の健康を守っていると思えばお安いご用である。このタスポ導入によってどれほどの効果が見込まれるのかは知らないけれど、形骸化することなく運用され続けていけば、多かれ少なかれ未成年者の喫煙人口は減っていくことだろう。
そんなことを考えながら、その自販機が設置されているコンビニの中へおじいさんと連れだって入って行く。おじいさんのために扉を支えながら振り向くとあの車はそこにはもうなかった。
タスポカードを登録していない私はタバコの自動販売機での購入が出来なくなると以前から意識していたにもかかわらず、案の定いつもの自販機の前に車をとめる。そそくさとお金を入れ「ケント6mg」のボタンを押す。「タスポカードを使用しなさい」という威圧的で無機質な女性の声。「そうだった!」思わず声を出す私。フイを突かれた時って本当にドラマのように声が出るもんなんだ。
瞬時に免許証でも購入できる話を思い出し、おそるおそる翳してみる。ダメだ。まだ免許証には対応していない。あまりの体裁の悪さにあたりを見回すと後ろにとめている車の中で見知らぬおじさんが何やら笑みを浮かべて私の様子を伺っているではないか。目が合った私は成す術もなく愛想笑いを浮かべる。このままスゴスゴと引き下がるのも鼻持ちならない。おそらく車中のおじさん、定年退職後の朝のひとときの出来事を帰って女房に話すつもりでいる。あたふたと目を泳がせながら善後策に終始するこの私の行動を味噌汁でも啜りながら大袈裟に話すのだ。女房は女房でいい歳して箸が転がるほど大笑いするに違いない。
イカん。こればかりは阻止しないといけない。
バールのようなものでもこの手に持っていればこじ開けて命がけでもタバコを欲している姿をアピールすることができたのだが、生憎手には財布だけだ。財布の中に目がくらむような額の現金が入っていたとしても何の役にも立たない。所詮お金とはそういうものだ。極限状態に身を置いた時は福澤諭吉のブロマイドにもならない。
横目でおじさんを見ると、まだこちらを見ている。車を動かす気配も感じられないほどリラックス感を満載している。
さてどうしよう。そう思った時、自販機の横の建物の陰から一人のおじいさんがとぼとぼと登場した。手に千円札を一枚持って私を見上げるように前に立つ。私のおはようございますという挨拶もそこそこにゆっくりと千円札を投入するおじいさん。そうだ!このおじいさんのタスポを借りればタバコを買える。なんだそういうことだったのか。これで車中のおじさん夫婦の朝食の話題にならなくて済む。朝の静寂にタスポカードの使用を促すアナウンスが流れる中、おじいさんはゆっくりとセブンスターのボタンを押す。
「あのー、カードがないと買えないんですけど」
「カード?」
「タスポってご存知じゃないですか?」
「知らん」
愕然とする私はもはやこの時点で朝食の話題だ。
「自販機でタバコを買うのにカードがいるようになったんですよ」
「セブンスターもか」
「はい、全部です」
状況を把握していないおじいさんは納得がいかない様子だ。
「あんたは買えたのか」
「いいえ、私もカードを持ってないもんで」
「じゃあ、どうすればいいんじゃ?」
「コンビニで買うしかないですね」
「面倒くさいのぉ」
タバコくらい人の手を煩わせずに購入したいものではあるが、私たちの老後を支えてくれる未成年者の健康を守っていると思えばお安いご用である。このタスポ導入によってどれほどの効果が見込まれるのかは知らないけれど、形骸化することなく運用され続けていけば、多かれ少なかれ未成年者の喫煙人口は減っていくことだろう。
そんなことを考えながら、その自販機が設置されているコンビニの中へおじいさんと連れだって入って行く。おじいさんのために扉を支えながら振り向くとあの車はそこにはもうなかった。







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