映画『ドラゴン・キングダム』総評

映画『ドラゴン・キングダム』総評

原題:The Forbidden Kingdom(禁忌王国) 中国語題:功夫之王

※この記事は映画の内容に関する記述があります、鑑賞予定の方はご注意下さい

この作品のトレイラー(予告編)を紹介したのが半年前。
ようやく実際に観ることができた。
正直あまり期待はしていなかったのだが、予想に反して充分に楽しめた。
観ておいてよかった、と今は思う。やはり私は、好きなのだ。このテの映画が。

ジャッキー・チェンとジェット・リーの二大スターの共演、という点が
この作品の最大の売りであることは間違いない。
しかし、特筆すべき要素は他にもたくさんある。

まず、「中国を舞台にした映画」としてきちんと成立している。
ここがいちばん重要と言っていい。
欧米によるアジア映画は多かれ少なかれどこかで必ず齟齬が見られるものだが、
この作品ではそれが最小限に抑えられている。多くのスタッフを中国人で固めて
いるためと思われる。ハリウッド映画としては画期的といえるかもしれない。
視点が変わりつつある。映画の都は第三国の文化に頼らざるを得なくなった。

内容は単純明快で、アメリカのボストンで暮らすカンフームービー好きの少年が
チャイナタウンの行きつけの骨董品店で豪奢なつくりの棍(:棒術で使用する
武器)を見つける。それは実は古代中国において大変重要な意味を持ついわくつきの
品物だったのだが、それをめぐる攻防に思いがけず巻き込まれることとなった少年は、数々の困難を乗り越えながらも与えられた使命を果たすべく奮闘する。

少年の成長と、時空を超えた冒険活劇。
展開は型通りで、意外性は何もない。誰もが安心して鑑賞できる夏休み娯楽大作。
ただ、設定はかなり練られており(強引な点は多々あるものの)スムーズに物語に
没入することができた。欧米人に西遊記がどの程度浸透しているのかは知らないが
まあ基本知識がなくとも古典的ファンタジーのひとつとして容易に受け入れられる
ことと思う。

さて、この映画のキモであるジャッキーとジェットの絡みだが、二人の体術の
持ち味であるスピード感と力強さがいつもに比べて足りない、と私は感じた。
おそらくは綿密な打ち合わせのもとに一手一手をきちんと計算して取り決めたが
ために、ダイナミズムに欠ける映像になってしまったのではないかと推測する。
もちろん打ち合わせなしにはできるわけがないのだが、息の合った殺陣師同士なら
簡単に体裁きだけ確認すれば後は呼吸と間合いで乗り切ることができる。
初共演の二人はそこが上手く噛み合わなかったのではないか、と。
年齢によるもの、とは思いたくない。
ここはひとつ、武術監督のユアン・ウーピン(『マトリックス』等を担当)の
せいにしておこう。もうそろそろワイヤーアクションに頼るべきではないだろ。

とはいえ、二人の本格的「中国武術」アクションを見ることができたのは何より
嬉しい。特にジェット・リーはハリウッドに進出してからは伝統的なカンフー
よりも現代的な“総合格闘技的体術”を披露することが多い。現代劇がほとんど
なので当然といえば当然なのだが。
二人のキャラクター設定は、ジャッキーが酒に溺れる学者崩れの旅の道士、
ジェットが寡黙な僧侶。これはそれぞれの出世作『ドランクモンキー酔拳』と
『少林寺』のセルフオマージュではないかと思う。
つまりこの作品は、古き良き功夫映画へのアメリカ発の熱烈なラブコールなので
あると私は確信する。
Kung-Fuは真の意味において、かの地にて開花し、実を結んだのだ。
ブルース・リーの時代から約35年。彼の蒔いた種は、着実に受け継がれていた。
感慨にたえない。

ジェット・リーが中国語を話す様子も久しぶりに目にした。
綺麗な北京語だが、英語のセリフの時に比べて明確にトーンが変わる。ちょっと
甲高くて、どこかユーモラスな響き。あっ『少林寺』だ、と反射的に私は思った。
個人的に嬉しいのだが、その違和感が物語の流れを遮断してしまう。
ジャッキーの北京語は少し広東訛りがあるのかもしれない。聞き取りづらい。
彼の場合近年はむしろ英語のセリフの方が饒舌になる。自信をつけたのだろう。
双方それぞれの、これまでのキャリアがセリフの語感にも滲み出てくる。
この二人がハリウッド映画のスクリーンに揃って登場することになるとは20年前は
想像だにしなかった。今、時代は彼等に追い風を送っている。この風が止んだ時、
彼等の本当の勝負が始まると思うが、私はとことんまで応援し続ける腹づもりだ。
なぜなら彼等(の作品)は、当時の私を支えてくれたから。壊れそうな私を。


もうひとつ、書いておきたいことがある。
ヒロインのリウ・イーフェイ(劉亦菲)がとても魅力的なのだ。
これが私にとっての最大の収穫だった。
彼女が画面に登場する度に、なんて綺麗な人なんだろう、と見とれてしまった。
この写真にはまだ幼さが残っているが。




現在はもっとシャープになっている。大陸的な顔立ち。典型的アジアン・ビューティ。
これが完全なるアメリカ主導の作品であったなら、彼女は抜擢されていないかも
しれない。欧米人が思い描くアジアン・ビューティはたとえばルーシー・リュー
とか、日本でいえば荒川静香などの若干キツめの伝統的「東洋美女」顔である。
彼女の起用ひとつとっても、この作品が欧米主導型ではないことが窺い知れる。
アジア人の感覚に根ざした、純然たるアジア人の映画なのだ。たとえ監督が米国人
であろうとも。私は重ねてその点を高く評価したい。
中国ではすでにトップスターの地位を確立しているようだが。
なんと彼女、日本で歌手として活動していた時期がある。「イーフェイ」の名で。


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イーフェイ



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私は迂闊にも知らなかった。ところでウカツって何。
日本を軽々と飛び越えて、ハリウッドデビューを果たしてしまったわけで。
1987年08月25日生まれというからもうすぐ21才。アクションや演技も申し分ない。

彼女の役どころは、敵である将軍に目の前で両親を惨殺されて以来、復讐に燃える
謎の女戦士といったものだが、抑制された中にも激しい感情がうごめく様子をよく
表現できていると思う。
劇中での女戦士は自分自身を指す際に、三人称である「彼女」を使う。
「(私は)嬉しい」と言う代わりに「彼女は喜んでいる」と表現する。
何か伏線があるのか、と最初は考えていたが、蓋を開けてみればそうでもなく
本当にストレートに彼女のトラウマを示すためのものだった。ちょっと拍子抜け。
まあ作品の性質からして設定をあまり細かく詰める必要もない。
憂いを含んだ彼女の表情が、シンプルな演出を上手くカヴァーしていた。
彼女の存在がこの作品に大きく貢献していると思う。今後世界へ向けて大きく飛躍
することだろう。見守っていきたい。

アジア(:中国)を強く意識させる作品だと思う。
この時期に公開したのも偶然ではあるまい。
実際そんな裏事情はどうでもよい。エンターテイメントとして優れていれば。
私はこの作品になら合格点を与えられる。
他の人にとっては、そうではないかもしれないが。


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