地下鉄で近づく

地下鉄

ロンドン市民の51%、地下鉄で交際相手と出会った経験=英調査Reutersより)

英情報サイトQypeが1カ月間にわたって行った調査では、対象者の51%がロンドンの地下鉄で出会った人とデートした、または電話番号を受け取ったことがあると回答。


地下鉄は、人間に何らかの情緒を促す乗り物なのかもしれない。
その密室性が、それぞれの「心」と向き合わせるのではないだろうか。
車窓を眺めてみても、たいていは真っ暗闇。
良い意味でも悪い意味でも、逃げ場がない。
隔離された状況における男女は、たとえ最初はその気がなくとも
やがては深い仲になる。

地下鉄での他者との交流、という点で思い出す個人的な出来事がいくつかある。

ひとつは、大阪市営地下鉄にて。もう20年近く前の話。
ある日仕事を終えた私は地下鉄の構内のベンチでぼんやりと列車の到着を
待っていた。人影はほとんどない。
火、持ってます?
反対側の席に座っていた若い女性が私に声をかけてきた。
ええ、ありますよ。
私は隣に移動してきた彼女の煙草に火をつけてあげた。
そして自らもポケットから煙草を取り出して、火をつける。
ひと煙吐き出したところで、私はおもむろに告げた。
本当は構内禁煙なんだよね。
彼女はそれを聞いて飛び上がらんばかりに驚いた。知らなかったらしい。
二人で声を上げて笑った。
それから同じ方向へ向かう車両に一緒に乗り込み、目的の駅に到着するまで
延々と他愛もない雑談をして、そのまま別れた。
これから仕事だと言っていたので、おそらく水商売だろう。
二度と出会うことはない他人と、楽しいひとときを過ごせた。

もうひとつは、福岡市営地下鉄にて。
やはり通勤時のこと。朝、職場へ向かう途中で乗り合わせた、ある中年の
女性がこちらに向かって話しかけてくる。
とはいえ本当に話しかけられているのかどうか、判然としない。
まったく意味の通らない言葉をしきりに投げかけてくるのだ。
なぜか、私に対して。
誰かと人違いでもしているのかと思いきや、そうでもなさそうだ。
要するに、別世界へ行ってしまっている方、と思われる。
ああ、朝から厄介なのに捕まっちゃったなあ。
そう思いながらも、無下に扱うこともできず、適当に相槌を打っていた。
そのうち、そのやり取りが次第に面白くなってきて。
噛み合いそうで噛み合わない会話を、私は楽しみ始めた。
こちらの言葉はほとんど理解できていない様子。というより関心がない。
自分がしゃべりたいだけなのだと思う。
私は目的の駅に到着するまでの10分間、その奇妙なコミュニケーションを
思いがけず味わった。もちろんその人とも、二度と会うことはない。

これまで様々な交通機関を利用してきたが、印象に残っている「まったくの
他人との触れ合い」は、そのふたつ。いずれも地下鉄。
恋愛うんぬんにはほど遠いエピソードだが、私にとってのある種の宝物とも
いえる思い出である。

地下鉄に乗る機会もほとんどなくなってしまったが、そういった濃密な
体験をまた得ることができるのであれば、たとえ要件がなくとも利用してみたい。

そういう時に限って何ひとつ得ることなく、ただぐるぐると回るだけなのだが。

ネタ元:ザイーガ


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