色分け巡礼者

警備員

40年間解けなかった数学のグラフ理論の超難問、解いたのは63歳の元警備員
Technobahnより)

40年間に渡って証明がされてこなかった数学のグラフ理論上の難問の一つとなる「道色分け問題(Road coloring problem)」をイスラエル人の元警備員、アブラハム・トラットマン(Avraham Trahtman)さんが最近になり証明することに成功したそうな。

道色分け問題については正直なところ、何の関心もない。
「あらゆる地図は目的地に必ず到達できる普遍的な道順を作ることができる」
というのが、この問題の命題であるらしい。
ああそうですか、と呟いて背中でも掻くより他にない。
かのポアンカレ予想あかんたれの再放送並みにしか興味がない。

トラットマンさんはそういう類いの人物ではなかったようだ。
現在はめでたく大学の教員として採用されたというが、やはり元警備員。
勤務中にも道の色分け図が目まぐるしく頭を駆け巡っていたのかもしれない。

暗い廊下に靴音だけが響く。懐中電灯の明かりが心細げに揺れる。
何やらぶつぶつと呟き続ける警備員。
青ー赤ー赤ー青ー赤ー赤。
・・・ああ、そういうことか。
彼は懐中電灯の明かりを頼りに、猛然とメモ用紙に筆を走らせ始めた。
その脇を不審者が通り過ぎても一向に気がつかなかった。
というような情景を思い浮かべる。

イスラエルという国は、インドと並んで数学的なセンスに優れた民族性を
持っているような気がする。
両国のハイテク・ソフトウェア産業は今や世界の重要な部分を担っている。
そういう国民性の根幹を成すのが、トラットマンさんのような一般の市民に
よる「探究心」ではないか、と思うのだ。

まるでパズルを解くかのように嬉々として数学の超難問に挑む人々は、
全世界にまだまだたくさんいることだろう。
そういう「市井の学者」達の普段の生活、そして彼らが送って来た人生の
成り立ちに興味がある。
名もなき人々が街角で哲学を論じ、お昼休みには科学の最新情報を交換し合い、
帰りの列車内では同僚と文学論を戦わせ、少年達は宇宙に思いを馳せる。
そんな光景が日常的に展開されるような世の中こそが、真の意味において
「豊か」である、と呼べるのではないか。

彼らにとっては、特別なことでも何でもなくて。
ただ好きだから、面白いから取り組んできたというだけのことだろう。

トラットマンさんはいわば、自分の歩んできた道をせっせと色分けして
いたのかもしれない。結果的に。
それは決して最短のルートではなかっただろうし。
目的地は大学の教員、というわけでもないのだろうが。
彼にとっての深い思索の日々は、彼自身に今後きっとかけがえのない価値を
もたらすに違いない。

でもひょっとしたら彼にとっては警備員という職業の方が、あれこれと
考え事を繰り広げるには都合が良かったりするかも。
教員ともなれば、物思いに耽る時間はおのずと限られてしまう。
環境の変化は、必ずしも彼の望むところばかりではあるまい。

彼の道の色分け作業は、まだまだ終わらない。


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