【特集】革新的なのはiPodでもiPhoneでもない、iTunesだ

【特集】革新的なのはiPodでもiPhoneでもない、iTunesだ


米Apple社の名声を世に知らしめたのは紛れもなくiPod及びiPhoneであるが、それらをコントロールするために必要不可欠なソフトがiTunes。これなくしてはiPodもiPhoneも単なる高価な板切れと化す。今日のアップルの快進撃を下支えする基盤となったこの画期的「総合メディアツール」について触れてみたい。




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●その時歴史が動いた●


思い出話と共に進めていこう。
iTunes 1.0が初めて発表されたのは、2001年01月09日。
スティーブ・ジョブズによる恒例のキーノート(基調講演)にて。




YouTube - Apple iTunes Intro - Part 1




YouTube - Apple iTunes Intro - Part 2



システムはMacOS9及びOSXをサポート。
ただしこの時点ではOSXはまだパブリックベータ版が公開されたばかりで、
ユーザの大半は当然ながらOS9を使用していた。上記講演でもジョブズはPowerMacG4(グラファイト)にインストールされたOS9版を使ってデモンスト
レーションを行っている。デスクトップ画面のアイコンデザインが懐かしい。

私もさっそくダウンロードして、当時の愛機にインストールした。
操作画面のデザインは現在とほとんど変わらない。下記画像はネット上で拾ったiTunes1.1のメイン画面。小さくてわかりづらいが四隅のボタンの機能がOS9様式
である。



この「Aqua」と呼ばれるメタリックなデザインはOSXの特徴のひとつで、OS9版
においてもそのまま踏襲されていた。始めからOSXを念頭に置いて設計されていた
というわけだ。ちなみにiTunesでOS9がサポートされるのはヴァージョン2.0.4
までで、2002年07月17日に公開された3.0からはOSX専用となった。

iTunesはもともとWindowsからの乗り換えを促す(「SWITCH」キャンペーン)
ためのキラーアプリとして発表されたものだが、同時に旧来のMacユーザに対して
もOS9からOSXへの移行を推し進めるための切り札として機能した。
私自身は後年に至るまで頑固にOS9を使い続けたので、Ver.2.0.4には長らく
お世話になった。それでもAquaのおかげで無意識に「教育」は受けていた
ことになる。遅ればせながらOSXに乗り換えた(Ver.10.3通称Pantherから)時も
iTunesは違和感なくすんなり使用できた。

iTunes for Windowsが登場するのはVer.4.1の頃(2003年10月16日発表)。
SWITCHはうまく切り替わってくれなかったようだ。
AppleがWindows用のソフトを提供するようになるのは、おそらくこれが最初
なのではないかと思う。当時としては実にショッキングな出来事だった。
方針の大きな転換。がっぷり四つに組むのではなく、外堀から埋めていく戦略へ。
現在も続くアップルのビジネススタイルである。ジョブズは狡猾な策士だと思う。
それもこれも、すべてはiTunesをきっかけに始まっている。
昔も今もiTunesは「キラーアプリ」なのである。


●デジタルジュークボックスの衝撃●



ソフトとしての機能は、1.0の時点ですでにほぼ完成されている。
音楽を(CDなどから)ハードディスク内に取り込み、ライブラリ上で管理する。
非常にシンプルで、わかりやすい。
私が感銘を受けたのは、インストールしたばかりのデフォルトの状態で、すでに
数曲(10曲程度だったろうか)ライブラリ内に収録されているのを見つけた時
だった。しかも一線級のアーティストらによる、アルバムなどにも収録されて
いるのと同じヴァージョンの「正規の・正式な」楽曲である。
これにはさすがに驚かされた。どういう経緯で実現したのかはわからない。
ユーザは実質的に「タダで」それらの曲を手に入れたことになる。
権利関係にうるさい現在では到底考えられない。
具体的にそれらの曲を紹介したいのだが、残念ながら全部は思い出せない。
確実なのはThe B-52’sの『Love Shack』とFilterの『The Best Thing』。この
2つのバンドは私がかねてから応援していたフェイヴァリットグループであり、
そんな彼等の曲に思いがけない機会で遭遇したことに、いたく感激した。
Appleと私の感覚がリンクした、と確信した瞬間である。
ちなみに『Love Shack』は上記キーノートにおいても使用されている。ジョブズ
にとってもお気に入りの1曲なのだろう。




YouTube - The B-52’s - Love Shack




YouTube - Filter - The Best Thing


これら以外の曲もことごとく私の「肌に合う」チョイスであり、私はAppleという
企業をより身近に感じるとともに、AppleがiTunesに「賭けている」ことを
確認した。本気度がひしひしと伝わってきたのだ。
後は君等が、好きな曲を埋めていけばいい。
ジョブズがそう言っているように思えた。

私はその日から、ライブラリを手持ちの楽曲で埋め尽くす作業に熱中した。
そしてせっせと溜め込んでいた数百にも及ぶMDディスクを、捨てる決意をした。
もう必要ない。Macさえあれば。

iTunesは、私の音楽に向かう姿勢に大きく影響を与えた。
それは革命と表現するにふさわしい。
アルバム単位ではなく、曲単位で鑑賞するというスタイル。
ライブラリに並ぶ楽曲は、余計な情報が剥ぎ取られ、並列化する。
私のつくったオリジナル曲の次にボブ・ディランが並び、その次に落語が来た
かと思えばさらにその次にはストラビンスキーの交響曲が控える。そんな自由な
音楽空間が構築できるのは、デジタルをおいて他にない。

何よりも、当時失いかけていた音楽そのものへの情熱。
これを取り戻すことができたのが、最大の成果であった。
そんなソフトウェアが、他にあるだろうか。


●書を捨て、音楽と共に街へ出よ●



iTunesの基礎となるのは米Casady & Greene社によって販売されていた
「SoundJam MP」というMac用の音楽ソフトである。

SoundJam MP

Appleはこのソフトの権利を手に入れると、インターフェイスに手を加えてiTunes
として公開した。Casady & Greene社からは3人のプログラマを引き抜き、
開発にあたらせた。結果的にSoundJam MPはiTunesに吸収される形となった。
SoundJam MPはSonicBlue社のRioシリーズやCreative Technology社の
NOMADシリーズといった、iPod登場以前のMP3ポータブルプレーヤに対応して
いた。iPodの商品イメージはすでにこの時ほぼ固まっていたのだろう。
初代iPodの発表は2001年10月23日。iTunes1.0発表から10ヶ月後のことである。
iPodとiTunesは当時から、切っても切れない関係にあったといえる。
ともすればジョブズは、iPodをつくりたいがためにSoundJam MPを手中に収め、iTunesを世に送り出したのではないかとも考えられる。

Sonicblue Rio One (2001)

Creative Technology NOMAD II MG (2001)

Apple iPod (2001)


ジョブズは、熟知している。
利益を出すのはソフトウェアではない。ハードウェアだ。
ハードを売ることによって企業は生き残れる。
ソフトはそのための導火線に過ぎない。
導火線だけでは、爆発のエネルギーは生まれない。

私自身は、当初iPodに懐疑的だった。なぜ今ポータブル音楽プレイヤーなのか。
その意図が理解できなかった。MP3プレイヤーならすでに市場に溢れている。
そこに割って入るほどの利がはたして本当にあるのだろうか、と。
結局私はだいぶ後になって初代iPodを手に入れるのだが、実際に使ってみて
初めて知ることができた。これは「ただの」音楽プレーヤーではない。
様々な可能性を秘めている。未来を感じさせるデジタルデバイスだった。
初代iPodはつい最近まで使用していた。内蔵ハードディスクが壊れるまで。
文字通り、使い倒した。そしてiPodとは何か、がおぼろげながら見えてきた。
見えてきたのだが、今回はiTunesについて書いているのでそこには触れない。


●iTunesは何処へ向かうのか●



その後iTunesはiPodと二人三脚で多方面的に飛躍的な発展を遂げていった。
動画データのサポート、iTunes Music Store(現iTunes Store)の開設、Podcastの提案とその普及、映画の配信、映画レンタルサービスなど。
もはや単なるジュークボックスソフトではない。総合エンターテイメント活用
ツールとしてその影響力を各方面へと発揮している。
そして現在、iPhoneへの対応に伴い、さらなる進化を遂げようとしている。
iPhone及びiPod Touch用のアプリケーションを提供するApp Storeではオープン
から1ヶ月の売上が3000万ドルに達した
とジョブズ自身が述べている(CNET Japanより)。この額は今後さらに増えていくことだろう。
一夜にして(というわけでもないのだろうが)巨大な市場を作り上げてしまった。
今回はハードウェアがソフトウェアを先導する形になっている。
今までにない新しい動きに、ジョブズも戸惑いを隠せないようだ。
事態は今や彼にも予測できないほどに猛烈な勢いで進行しているのかもしれない。
時流が大きなうねりとなって、ありとあらゆる方向へ押し寄せてきている。
誰に予想できただろうか。

iTunesはこれからどういう形をとっていくだろう。
取り扱うメディアがさらに多岐に渡るとすれば、iTunesという名称もそぐわなく
なるかもしれない(tuneとは本来「曲」を意味する言葉)。
他のアプリケーションとの統合、というのも考えられなくもない。
iTunesにはブラウザ的な機能が実装されているが、Safariなどのブラウザとの
連係がさらに進んで、やがては区別がつかないほどに一体化するのではないか、
と。
悪くないアイデアだが、私はそういう方向へは進まないと考えている。
たとえば万能型のアーミーナイフよりもそれぞれの用途に合わせた専用の道具を
使った方が作業効率ははるかに良いはずだ。
何でもできる、という状況は、突き詰めていくと何にもできないということに
つながりかねない。便利さを追求し過ぎると、別の面での不便さが増す。
Macにおいてはすでに各アプリケーション間のシームレス(:継ぎ目のない)化が進んでおり、ファイルのやり取りや共有などがスムーズに行われる仕組みに
なっているので、ことさら統合する必要はないだろう。だがiTunesに関してはWindowsもカヴァーしている以上、大きな路線変更はできない。

前述した通り、iTunesは根本的な面ではすでに完成している。
ヴァージョンアップの頻度は高いが、その内容はほとんどが新機種への対応と
バグフィックスに費やされている。
劇的に変わることは、おそらくないだろう。
あるとすればその時は、これまでのiTunesとは全くの別物になるはずだ。
ならばiTunesと呼ぶ必要はなくなる。

iTunesが「tune」を冠する限りは、安泰であると思う。
どんなに機能やサービスが増えようとも、「曲」の単位ひとつひとつにこだわる
姿勢がAppleに残っていれば。何も恐れることはない。

大切なのはツールではなく、そのツールを使って出来上がったものである。



文責:藤村彩家

参考:iTunes - Wikipedia



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